MOVEMENT SCIENCE / SHOULDER COMPLEX
肩甲上腕リズムは、
本当に2:1なのか。
腕を上げるとき、肩甲骨も動く。
でも、その動きに一つの正解はない。
腕を上げるとき、上腕骨と肩甲骨は協調して動きます。この関係を説明する言葉が「肩甲上腕リズム」です。教科書では「2:1」という比率が紹介されますが、実際の動きは挙上角度や負荷、測定方法によって変化します。
2025年の系統的レビューと古典的な動作研究を手がかりに、数字の意味と、トレーニング現場で観察したいことを整理します。
QUICK ANSWER
2:1は、理解の入口。
判定の基準ではない。
肩甲上腕リズムの「2:1」は、一般に肩甲上腕関節の運動:肩甲骨の上方回旋を表す古典的な説明モデルです。腕を180°挙げるとき、肩甲上腕関節が約120°、肩甲骨が約60°動く、という例がよく使われます。
※概念図であり、実測値・正常範囲・全員が到達すべき角度を示したものではありません。
01 / ANATOMY
腕を上げる動作は、
一つの関節だけではない。
腕を頭上へ上げる動作には、上腕骨と肩甲骨の間にある肩甲上腕関節(GH)、胸郭の上を動く肩甲骨の機能的な運動(ST)、さらに鎖骨に関係する肩鎖関節・胸鎖関節が関わります。
肩甲上腕関節
上腕骨が肩甲骨に対して動く部分。肩の大きな可動域を担います。
肩甲胸郭の運動
肩甲骨が胸郭に対して位置や向きを変える運動。上方回旋だけでなく後傾・外旋なども生じます。
上腕骨と胸郭の関係
身体に対して腕がどこまで上がったかを見る角度。GHの角度そのものとは異なります。
「2:1」と「3:1」が、両方登場する理由
比率を読むときは何と何を比べたかが重要です。古典的な「GH:ST=2:1」に対し、研究によっては「HT:ST」を用います。単純化した平面モデルなら、GH120°+ST60°=HT180°なので、HT:STは3:1になります。
ただし実際の肩は三次元的に動きます。上の足し算は概念を理解するための近似であり、異なる測定法の比率をそのまま換算して比較することはできません。
02 / RESEARCH
最新の研究は、
固定されたリズムを支持しない。
20研究を統合した肩甲骨運動の解析
Fernández-Matíasらは、症状のない人と腱板関連肩痛のある人を含む20研究を検討しました。症状のない人でも肩甲骨の動きには大きなばらつきがあり、腕の挙上初期から肩甲骨が動くこと、一定の「セッティング相」や固定したリズムを前提にしにくいことが示されました。
このレビューで報告された約2.86〜3.13:1はHT挙上角度:肩甲骨上方回旋の比率です。古典的なGH:ST=2:1と、分子が違う点に注意が必要です。
負荷と挙上角度で、比率が変わる
McQuadeとSmidtは、肩に症状のない25名の腕の挙上を三次元計測しました。受動的に腕を上げる場合、腕自身の重さに抗して上げる場合、外部抵抗を加える場合で、肩甲上腕リズムは異なり、挙上の途中でも変化しました。
つまり「2:1を守るように腕を上げる」という単純な指導を、この研究から導くことはできません。
03 / MOVEMENT
肩甲骨は、
上に回るだけではない。
腕を挙げるとき、肩甲骨では上方回旋、後傾、外旋などの三次元的な運動が組み合わさります。肩甲骨は胸郭上に位置し、鎖骨の動きとも連動します。
上方回旋
肩甲骨の関節窩が上方を向く方向へ回る運動。
後傾
肩甲骨の上部と下部の向きが前後方向に変わる運動。
外旋
胸郭に対して肩甲骨の向きが水平方向に変わる運動。
「肩甲骨を寄せたまま」は、すべての動作に適切?
腕を上げるときに肩甲骨を常に背骨へ寄せ、動きを止める必要はありません。肩甲骨を寄せる動作が役立つ場面と、上方回旋などを許した方が動作を行いやすい場面は異なります。
肩甲骨の位置を一つの形に固定するより、行う運動と負荷に対して必要な動きが出ているかを考えます。
04 / OBSERVATION
数字を測る前に、
動作の条件をそろえる。
腕が上がりにくい、左右で動き方が違うと感じたとき、肩甲骨だけを原因と決めず、まずは同じ条件で動きを見比べます。以下は動作を観察するための例であり、診断テストではありません。
腕をどの方向へ上げたか
前方・斜め前方・側方では動きが異なります。比較するなら方向と速度をそろえます。
胸郭と体幹はどう動いたか
腰を反る、体幹を傾けるなど、肩以外の動きも確認します。動いたこと自体を直ちに異常とはしません。
負荷を変えるとどうなるか
無負荷と軽い負荷では動きが変わる場合があります。痛みのない範囲で、条件を一つずつ変えます。
痛みと可動域を分けて記録する
腕がどこまで上がるか、どの角度で違和感が出るか、左右差があるかを分けて確認します。
05 / TRAINING
トレーニングでは、
比率より課題を考える。
オーバーヘッドプレスの場合
頭上へ重さを押し上げる動作では、上腕骨・肩甲骨・胸郭・体幹が連動します。肩甲骨を「動かさない」ことを一律の正解にせず、扱う重量と現在の可動域で、動作をコントロールできるかを確認します。
腕を上げる練習の場合
まず軽い負荷で腕を上げる動作を確認し、必要に応じて可動域や運動方向を調整します。肩甲骨の動きだけを増やすことが、すべての人の目的になるわけではありません。
筋力が必要な場合
前鋸筋や僧帽筋などは肩甲骨の運動に関わります。ただし「上方回旋が少なく見えるから前鋸筋が弱い」と、見た目だけで筋力低下を断定することはできません。必要な運動課題と負荷を整理して選びます。
06 / STUDIO KOMPAS
一つの数字より、
その人の動きを。
STUDIO KOMPASでは、姿勢・関節・動作を確認し、目的に合わせてトレーニングを組み立てます。肩についても「肩甲骨が正しい位置にあるか」だけではなく、腕を上げる動作、胸郭や体幹との関係、負荷への反応を合わせて考えます。
ここで述べた研究結果は一般的な運動学の知見です。それを個々のトレーニングへどう取り入れるかは、実際の身体と目的を確認して判断する必要があります。
OBSERVE.
THEN TRAIN.
07 / FAQ
よくある質問。
肩甲上腕リズムの2:1は間違いですか?
間違いと切り捨てるより、古典的な説明モデルとして理解するのが適切です。実際の比率は角度・負荷・測定法で変わり、全員に当てはまる固定値ではありません。
腕を上げ始める30°までは肩甲骨が動かない?
古典的には「セッティング相」として説明されますが、2025年の系統的レビューでは、挙上の初期から肩甲骨が動くことが示されています。
肩甲骨の左右差は、肩こりの原因ですか?
左右差だけで肩こりの原因とは断定できません。痛みの有無、可動域、負荷、生活上の動作など、複数の要素を考える必要があります。
肩甲骨を寄せる運動だけで改善しますか?
一つの運動で全員の問題が解決するとは限りません。必要に応じて肩関節・肩甲骨・胸郭・体幹を含め、実際の動作へつなげていきます。
RELATED READING
肩を、もう少し深く知る。
REFERENCES
参考文献。
- Fernández-Matías R, et al. Scapular kinematics variability in individuals with and without rotator cuff-related shoulder pain: A systematic review with multilevel meta-regression. Braz J Phys Ther. 2025;29(6):101261. DOI
- McQuade KJ, Smidt GL. Dynamic scapulohumeral rhythm: The effects of external resistance during elevation of the arm in the scapular plane. J Orthop Sports Phys Ther. 1998;27(2):125–133. DOI
- Scibek JS, Carcia CR. Assessment of scapulohumeral rhythm for scapular plane shoulder elevation using a modified digital inclinometer. World J Orthop. 2012;3(6):87–94. DOI
公開研究を2026年10月31日に確認。研究で示される集団の傾向は、個人の診断や治療方針を直接決めるものではありません。
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