MOTOR LEARNING / DYNAMICAL SYSTEMS / CLA

ダイナミックシステム理論と
制約主導型アプローチとは?

「正しい動きを教える」だけが、
運動学習ではない。

人の動きは、
筋力や柔軟性だけで決まるわけではありません。

その人の身体、
行う課題、
そして周囲の環境。

それらが組み合わさることで、
その場に合った動きが生まれるという考え方があります。

PERSON
TASK
ENVIRONMENT
LEARNING

QUICK ANSWER

まず、かなり簡単に言うと。

人の動きは、

身体・課題・環境の組み合わせから生まれる。

ダイナミックシステム理論では、
身体の動きを
「脳が決めた一つの正解フォームを再生するもの」
だけとして考えません。

身体の特徴や能力、
行おうとしている課題、
周囲の環境などが互いに影響し、
その状況に応じた動きが生まれると考えます。

そして制約主導型アプローチ、
英語では
Constraints-Led Approach(CLA)
と呼ばれる方法では、
課題や環境などを工夫することで、
学習者が自分で動き方を探せる状況をつくります。

MOVEMENT EMERGES FROM INTERACTION.

動きは、
一つの原因から
生まれない。

人 × 課題 × 環境。
その組み合わせによって動きは変わります。

01 / DYNAMICAL SYSTEMS

ダイナミックシステム理論とは?

ダイナミックシステム理論は、
もともと数学や物理学、生物学など
さまざまな分野で使われてきた考え方です。

運動について考えるときは、
人の身体を
多くの要素が互いに影響し合う
一つのシステムとして捉えます。

筋肉だけ。
関節だけ。
脳だけ。

どれか一つだけで動きを説明するのではなく、

多くの要素が関係しながら
そのときの動きが作られている

と考えます。

EXAMPLE

例えば「歩く」と「走る」。

ゆっくり移動しているときは歩きます。
しかし速度を上げていくと、
あるところで自然と走る動きへ切り替わります。

「右脚をこう動かして、次に左脚をこう動かす」
と一つずつ意識して切り替えているわけではありません。

条件が変化することで、
身体全体の動き方も変化します。

02 / NONLINEAR

「非線形」とは、
上達が一直線ではないということ。

この分野では
「非線形」という言葉がよく使われます。

難しく聞こえますが、
運動学習では

練習した量と上達が
いつも同じ割合で進むわけではない

というイメージで考えると分かりやすいです。

何度練習してもなかなか変わらなかった動きが、
あるきっかけで急に変化することがあります。

反対に、
昨日はうまくできたのに
今日はうまくできないこともあります。

LINEAR


練習した分だけ
同じ割合で上達する

NONLINEAR


停滞したり、
急に変化したりする

03 / SELF-ORGANIZATION

「自己組織化」とは、
動きが自然にまとまっていくこと。

もう一つ重要な言葉が
「自己組織化」です。

これは、
身体のすべての部分を
一つずつ細かく指示しなくても、
目的や条件に合わせて
動き全体がまとまっていくことを指します。

例えば、
重い荷物を持つときと
軽い荷物を持つときでは、
身体の使い方は自然に変わります。

つまり身体は、

その場の条件に合わせて
動き方を調整する能力を持っている

ということです。

04 / ATTRACTOR

「アトラクター」は、
いつもの動き。

ダイナミックシステム理論では、
安定して繰り返されやすい状態を
「アトラクター」と表現します。

運動で考えるなら、

その人が自然と戻りやすい動き方

と考えると分かりやすいです。

例えばスクワットをすると、
毎回同じ方向へ身体が傾きやすい。

投げるときには、
無意識に同じタイミングで
身体を使いやすい。

こうした安定した動きのパターンを、
この理論では一つの
「安定した状態」として捉えます。

05 / ECOLOGICAL DYNAMICS

そして重要になる、
「人と環境の関係」。

CLAを理解するうえでは、
ダイナミックシステム理論だけではなく、
「エコロジカル・ダイナミクス」という考え方も重要です。

エコロジカル・ダイナミクスでは、
人の動きと周囲の環境を
切り離して考えません。

目で見たもの。
手や足から感じた情報。
相手の動き。
ボールの位置。
距離。
スペース。

そうした情報を受け取りながら、
人はその場で動きを調整します。

06 / AFFORDANCE

「アフォーダンス」とは、
その人に見えている行動の可能性。

この分野でもう一つよく出てくるのが
「アフォーダンス」という言葉です。

簡単に言えば、

その環境の中で
「自分なら何ができるか」
という行動の可能性

です。

同じ高さの台を見ても、
身長や筋力、経験によって
「登れる」と感じる人もいれば、
「高すぎる」と感じる人もいます。

つまり、
行動の可能性は環境だけで決まるのではなく、

その人の能力と環境の関係

から生まれます。

07 / CONSTRAINTS

動きを変える3つの「制約」。

ここでいう「制約」は、
邪魔をするものという意味だけではありません。

動きの選択肢を形づくる条件

と考えると分かりやすくなります。

01
INDIVIDUAL

個人の制約

身長、体格、筋力、
柔軟性、経験、疲労、
不安や意欲など、
その人自身が持つ条件です。

02
TASK

課題の制約

ルール、ゴール、
重さ、距離、道具、
動作の条件など、
行う課題に関係する条件です。

03
ENVIRONMENT

環境の制約

床の状態、広さ、
気温、光、周囲の人、
相手選手など、
身体の外側にある条件です。

08 / CONSTRAINTS-LED APPROACH

CLAは、
「動きを直接直す」だけではない。

制約主導型アプローチ、
Constraints-Led Approach(CLA)は、
こうした考え方を
運動学習やコーチングへ応用する方法です。

例えば、
「膝をこの角度にしてください」
「腕をここへ動かしてください」
と身体の動きを細かく指定する方法があります。

CLAではそれだけでなく、

課題や環境そのものを変えることで、
学習者が自然と別の動き方を探す状況をつくります。

COACHING


答えを全部伝えるのではなく、
答えを探せる条件をつくる。

09 / PRACTICE

実際には、
どんなことをする?

EXAMPLE 01

スクワット

「もっとお尻を引いて」と言い続けるだけでなく、
後ろにボックスを置いて
そこへ座る課題にする。

環境や課題を変えることで、
身体の使い方が変化する可能性があります。

EXAMPLE 02

投げる動作

腕の角度だけを直すのではなく、
投げる距離や的の位置、
ボールの種類などを変える。

すると、
目的を達成するために
身体全体の使い方も変化します。

EXAMPLE 03

スポーツ

コートの広さや人数、
ルールなどを変えることで、
選手が見る場所や判断、
動き方を変えることができます。

10 / ROLE OF COACH

「教えない」という意味ではない。

CLAについて、
「コーチは何も教えてはいけない」
と理解されることがあります。

しかし、
そこまで単純ではありません。

指示やフィードバックを使うこともできます。

大切なのは、

一つの理想フォームを細かく再現させることだけを
運動学習と考えないこと

です。

コーチは、
課題の難しさを変える、
道具を変える、
距離を変える、
目標を変えるなど、
学習が起こりやすい状況そのものを設計できます。

11 / VARIABILITY

毎回まったく同じ動きでなくてもいい。

人の動きには、
もともとある程度のばらつきがあります。

CLAやエコロジカル・ダイナミクスでは、
こうした「ばらつき」を
必ずしも失敗とは考えません。

状況が変わったときに、
少しずつ動きを変えながら
目的を達成できることも重要だからです。


同じフォームを再現する能力だけでなく、
状況に応じて動きを変えられる能力も
スキルの一部として考えます。

12 / IMPORTANT POINT

CLAが、すべての答えではない。

ダイナミックシステム理論や
エコロジカル・ダイナミクス、
CLAは、
運動学習を考えるうえで有用な視点の一つです。

一方で、
運動学習には複数の理論や指導方法があり、
CLAだけが常に優れていると
言い切れるわけではありません。

動作を具体的に説明した方が
分かりやすい場面もあります。

見本を見せることが
有効な場面もあります。

課題を変えて
自分で探索してもらう方が
学習しやすい場面もあります。


重要なのは理論を目的にするのではなく、
学習する人と課題に合わせて
方法を選ぶことです。

13 / STUDIO KOMPAS

KOMPASでは、
どう考えるか。

STUDIO KOMPASでも、
動きに一つの「正解」を
最初から当てはめるとは限りません。

同じスクワットでも、
身体の大きさ、
股関節や足首の可動性、
筋力、
トレーニング経験によって
動き方は変わります。

そのため、
身体を確認したうえで、
必要に応じて姿勢や負荷、
動作の課題などを調整します。


理論に身体を合わせるのではなく、
身体と目的に合わせて
理論を使う。

REFERENCES

参考文献

  1. Newell KM.
    Constraints on the development of coordination.
    In: Wade MG, Whiting HTA, eds.
    Motor Development in Children.
    1986.
  2. Davids K, Button C, Bennett S.
    Dynamics of Skill Acquisition:
    A Constraints-Led Approach.
    Human Kinetics. 2008.
  3. Chow JY, Davids K, Button C, Renshaw I.
    Nonlinear Pedagogy in Skill Acquisition.
    Routledge.
  4. Woods CT, McKeown I, Rothwell M, et al.
    Sport practitioners as sport ecology designers:
    how ecological dynamics has progressively changed perceptions of skill acquisition.
    Frontiers and related ecological dynamics literature.
  5. Moy B, Renshaw I, Gorman AD.
    Applying the constraints-led approach to facilitate exploratory learning of the volleyball serve.
    Journal of Sports Sciences. 2024.

本記事では、
ダイナミカルシステム、エコロジカル・ダイナミクス、
制約主導型アプローチに関する概念を、
一般の方にも理解しやすい表現に置き換えて説明しています。
理論上の細かな立場や用語の定義には、
研究者間でも議論があります。

AUTHOR / SUPERVISOR

執筆・監修

山岸 慎

STUDIO KOMPAS創業者・パーソナルトレーナー|NSCA-CSCS


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DESIGN THE CONDITIONS.

動きを教えるだけでなく、
動きが生まれる条件を見る。

人を見る。
課題を見る。
環境を見る。

ダイナミックシステム理論とCLAは、
運動学習を
「身体だけ」の問題にしないための
一つの視点です。

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